「今回は大分の深島と別府に行きます」と言われて
「えっ、大分って瀬戸内海なの?」とびっくり。
「瀬戸内海って広いんですよ」
確かに“瀬戸内海は本州・四国および九州に囲まれ、紀伊水道と豊後水道で太平洋に、関門海峡で日本海に開いていて、領域内には大小700の島がある”とある。
というわけで、大分までは飛行機の旅。
いつもは船や対岸からしか見ることのない瀬戸内海を空から見る。
やー、面白い!島がぽこぽこ浮かんでる。こんもりした島。ちょっと長い島。クジラみたいな島。クネっと身を捩ったしっぽの大きな島。モールス信号みたいな島。どの島も黒っぽい緑色。
空港から蒲江港までは高速を使って2時間足らず。
一日に4往復しているという定期船「えばあぐりいん」に乗り込んだ。
蒲江港から深島までほぼ30分の船旅だ
途中屋形島を経由して深島港に到着した。
深島は大分県最南端にあって、島全体が国定公園に指定されている。
人口12人に対して猫の数は約70匹。
周囲4キロほどの小さな島だ。
ふかしまっぷで島の概要がよくわかる
岸壁から海をのぞき込めば、思わず息をのむほど。
なんと深島の海の美しいこと!
エメラルドグリーンに透けて見えるサンゴ礁とキラキラ泳ぐ色とりどりの魚たち。
ここは、サンゴ礁の生息が可能な北限だそう。
深島は猫とサンゴが出迎えてくれる楽園と言われている。
ああ、シュノーケルと水着を持ってくるんだった!
サンゴは迎えてくれたけど、果たして猫に会えるかな?
そんな不安をいきなり払拭してくれたのは、港から直ぐの曲がり道で遭遇した茶トラ猫。
“いらっしゃーい”とばかりにこちらを見ている。
よし、ご挨拶代わりにスケッチを・・と鉛筆を構えたら、あらら・・島の方と思われるおじさんにしっぽをピンと伸ばして嬉しそうについていってしまった。
おじさんにトコトコついていく茶トラ
あら、残念…と思いきや、居るはいるは猫だらけ。
網の下、資材置き場、島で味噌を造るお店の店先の日陰、棚の下、至る所に猫がいる。
一輪車は背のまるまった形からネコとも言われるが、そのネコの裏側でも背を丸めた猫がゆっくり昼寝を楽しんでいる。
猫を見たい人は深島みそに行ってみそ~
そうだ、こんなに猫が居て、綺麗な海もあるのなら、海辺の猫を描きたいなと思い立ち、海辺へ向かうと…居た!先客である観光と思われる若い女性に擦り寄る猫、それを海辺から眺める猫、はたまたテトラポットで海を眺める猫。
往来みたいに猫とすれ違う
哲学的な風貌
うん、なかなかいい絵になった
腰を据えて茶トラを描き始めたら、後ろでは二匹の猫がもめる声が・・
そのうちおばあさんたちが小さな貝を採りに来た。
このちっちゃい貝は味噌汁に入れても煮ても甘みがあって、美味しいんですって。
貝の名前が“しゅうとめ”というのがおかしい
働き者のおばあさんたちは来るなと言われても海に来てしまう
一番多い時には深島には200人住んでいて、小学校や中学校もあったという。
今はうんと減ってしまったけれど、働き者のおばあさんたちは麦から味噌を作り始めた。
そして今は“深島を無人島にしない”というというミッションの元、島に戻ったお孫さんが家庭を持って味噌づくりの継承や民宿、マリンスポーツもやっているという。
三人のお子さんも生まれて、きっとこれから美しい海で遊ぶ子供たちの声が島に響き渡るようになるだろう。
たくさんの猫がくつろぐ素晴らしい海に囲まれた小さな小さな深島。
もし民宿に泊まったり、マリンスポーツをやったりしたいなら、必ず予約をしなくてはいけない。
私たちは予約なしで行ったから、ご飯も食べられず、すきっ腹を抱えて夕方のフェリーを待つことになった。
次はちゃんと予約して水着も持って来よう。
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作家プロフィール
池田あきこ
東京、吉祥寺生まれ。
1976年、革工房わちふぃーるど設立。
1983年、初の直営店を自由が丘にオープン。ショップのシンボルマークとして『猫のダヤン』が誕生した。
1987年より不思議な国わちふぃーるどを舞台に絵本を描き始め、画集、長編物語、旅のスケッチ紀行など多方面に作品を発表。著書は130タイトルを超える。
1999年、初の原画展全国ロードを開始。
2010年から「ボルネオ緑の回廊」プロジェクトで、動物たちに安全な森をプレゼントする活動を続けている。
2018年、立体的に世界を楽しむ「猫のダヤン35周年 ダヤンと不思議な劇場 池田あきこ原画展」を松屋銀座を皮切りに全国ロード開催。河口湖木ノ花美術館にて常設展開催中。
2023年6月28日より猫のダヤン40周年記念展『池田あきこ原画展ーダヤンの不思議な旅』を銀座松屋で開催。
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